渡辺優さんの短編集『自由なサメと人間たちの夢』。以前読んだ『ラメルノエリキサ』が面白く、他の作品も読んでみたいと思っていたところ、本作が文庫化されていたので読んでみました。
「サメの話」や、"吾輩はサメである。名前はサメである。" で始まる「水槽を出たサメ」など、全体的に "夢" をテーマにした短編が7篇収録されています。
おすすめはやはり「サメの話」と「水槽を出たサメ」。
サメを飼うという夢を抱いて生きてきた主人公(キャバ嬢)。やがてその夢が叶う日が来るが、ひょんなことからサメが喋りだし、人生相談に乗ってもらうという話。そしてサメもまた人から学び、生きる目的を探す旅に出る。そこで見つけた答えとは一体。
サメが旅の途中で出会った少女に言われた言葉「イッツノットユアビジネス」。これはしばらく頭に残りそうです。
『ラメルノエリキサ』のときほど、面白い!といった感じではないですが、登場人物の個性が強く、かといって嫌な感じもなく、サメが喋っていることにさして違和感もなく、読みやすいです。エッジが効いているというか、どの話にも強い印象を残す何かがあり、それがこの著者の特長でもあると思います。
"夢" がテーマといっても、睡眠中の夢もあれば願望としての夢もあり、その両方が関わっている「彼女の中の絵」もよかったです。
描きたいものはないが技術はある男性と、描きたいものはあるが技術がない女性。その二人が出会い、ひとつの作品を生み出そうとする話。短い話にも関わらず印象的で、短編アニメかドラマか、映像でも見てみたいと思いました。
短編一つひとつ(それぞれの登場人物)に強烈な夢があり、それが人生にどう関わるのかを最後にサメがうまくまとめてくれる。そんな作品でした。
『地下にうごめく星』という作品も出版されているようなので、次はそちらも読んでみたい。