『マイノリティ・リポート』や『トータル・リコール』、『ブレードランナー』など、著書が多く映画化されているSF界の巨匠、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読みました。
はじめてのディック作品でしたが、ディストピアや機械に監視された社会といったテーマではなく、「人間とはなにか?」というテーマについて考えさせられる内容でした。
あらすじ
放射能に汚染されて荒廃した地球では、生きた動物がとても貴重な存在になっていた。生きた動物を飼いたくてもお金がない主人公のリック(職業はアンドロイド専門の賞金稼ぎで電気羊を飼っている)は、火星から逃亡してきたアンドロイド達を狙うことに。次第に人間とアンドロイドとの違いを意識し始めるリック。はたしてリックは彼等との戦いの中で何を感じるのか。
人間性とは
リックが飼っている電気羊をはじめとして、多くの人が機械の動物を飼っていて、それがステータスになっている世界が奇妙でした。中には機械だと知らず、本物の動物として接する人もいます。
一方、アンドロイドも外見や行動だけでは人間と区別がつかないので、アンドロイドとは知らずに普通の人として接する人、さらには自分を人だと信じているアンドロイドなども登場し、カオスな世界です。
そんな世界で、人とアンドロイドを区別するポイントとして描かれているのが感情移入。対象に対して感情的になれるかどうかを指標とされています。
つまり、感情移入こそが人間性として定義されており、(訳者あとがきに書かれているように)登場人物のすべてが「人間」でもあり「アンドロイド」でもあり得るということが興味深かったです。
人工知能やアンドロイドに対する脅威を描く作品が目立つ中で、こういったテーマの作品は新鮮でした(1977年の作品ですが)。