伊藤計劃さんの『ハーモニー』を読みました。
「大災禍」(世界的な大混乱)の再発を恐れた人類は、医療分野の発展により病気のない世界、誰もが倫理的で優しさに包まれた世界の実現を目指します。そんなユートピアで、自殺を試みる3人の少女たち。彼女たちは何を考え、何を実現しようとしていたのか。その真相と結末から、人にとっての幸せとは何かを考えさせられる話です。
ハッピーエンドなのかどうか
どちらとも取れるので、読む人によって違うんだろうなと思います。僕はハッピーエンドではないと感じました。この世界の当事者として考えると、ただひたすら平穏な毎日が繰り返されるので、それはそれで幸せなのかもしれません。でも事実を知った上で客観的に見ると、不幸に思えてしまう。
僕は「我思う、故に我あり」という言葉が好きで、自分を意識することがよくあります。なので、ミァハに共感できる部分があります。とはいえ、やはりハーモニーの世界には怖さを感じてしまいます。
人にとっての幸せとは
それこそ人によって感じ方が違うので、幸せの形も千差万別だと思います。最近、Twitterで「平和のために愛は不要」みたいな話題が挙がっていましたが、身近な(自分が属する)コミュニティを超えた存在に対して無関心でいることが、人類という単位で考えた場合には一番平和に落ち着くような気がしました。
モチベーション3.0なんていう言葉もあって、社会のために貢献したいという欲求はすばらしいものですが、それが結果的に争いを生むという歴史もあるわけで、ほんとに難しい問題ですね。
「正解」なんてないですが、こういった大きなテーマに仮説を立てて、何かしらの解を出そうとするSF作品が好きです。そういった意味でも、『ハーモニー』は素晴らしい。
新版の巻末に掲載されている伊藤計劃さんのインタビューで語られていますが、『ハーモニー』でひとまず結論は出したけれども、あくまで現時点での限界であって、その先はこれからも探っていきたいという趣旨のコメントをされています。
"その先"を知ることは叶いませんが、どういった可能性があるのかを思いながら、いつかまた『ハーモニー』を読み返したいと思います。
ちなみに、『ハーモニー』は『虐殺器官』と対になる作品で続編でもあるため、『虐殺器官』から先に読んだほうがいいです。