ミステリーに数あるトリックは、横溝正史曰く大きく3つに分類できるそうです。「密室殺人」「一人二役」「顔のない死体」。今回読んだ、名探偵 金田一耕助が登場する『本陣殺人事件』には、表題作を含めて「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の3篇が収録されており、それぞれこの3つのトリックをテーマに描かれています。
本陣殺人事件
(密室殺人の舞台としては難しいとされる)日本家屋を舞台にした、初の密室殺人を描いた作品として評価されているそうです。金田一耕助が初登場する作品でもあります。
一柳家(江戸時代から続く旧家)で発生した凄惨な殺人事件と密室の謎。そこに隠された驚きの動機と人間関係を名探偵が暴くという話。
密室殺人をテーマにしているだけあって、トリックが難しく読み応えがありますが、トリックよりも動機や一柳家の人々にインパクトを感じました。
車井戸はなぜ軋る
同じ本位田家の血を引きながら、異なる運命を背負った大助と伍一。二人は生き写しのようにそっくりで、違うのは目の形だけ。ある日、戦争から返ったのは一人だけ(目がくり抜かれている)。それは果たして大助なのか伍一なのか。という話。
いかにも先の展開が読めそうな設定ですが、簡単には終わらないのがこの作品のすごいところ。本陣殺人事件よりもドロドロしていて、一族物の面白さを存分に味わえました。
黒猫亭事件
「顔のない死体」が登場すると、ほぼ被害者と容疑者が入れ替わっていると思って間違いない。つまり、読者にとって有利なテーマであるにも関わらず、挑戦する作家が多いのはそれだけ魅力があるからで、一ひねりも二ひねりもした新しい作品を書きたい。といった趣旨のことを冒頭で横溝氏が述べています。
詳細は省きますが、この本に収録されている3篇の中で一番面白い!正直なところ、最後に「黒猫亭事件」が収録されていなかったら、他の金田一耕助シリーズを読もうとは思わなかったかもしれません。これで一気に興味が出てきたので、長編の『獄門島』にもチャレンジしてみたいと思います。
この時代の作家さんの特徴なのか知りませんが、江戸川乱歩と同じく横溝正史も語り部が著者自身なんですね。最近の小説では主人公の一人称が多いので、読むときに少し違和感がありました。