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柳広司さんのスパイミステリー。『ジョーカー・ゲーム』『ダブル・ジョーカー』『パラダイス・ロスト』『ラスト・ワルツ』のシリーズ4作品を読みました。

D機関が世界を暗躍

魔王と称される結城中佐が一人で立ち上げたスパイ養成組織(通称 D機関)。D機関では、「一般の学校出をスカウト(軍人はNG)」「決して殺さない(殺人は最も目立つ)」「自殺しない(必ず情報を持ち帰る)」といった、従来の(軍人的な)スパイの常識を覆すルールが掲げられ、目立たないこと、影のような存在に徹することが理想とされます。

D機関のメンバーは、医学、薬学、心理学、物理学、化学、生物学などの学問から、手品、ダンス、摺り、女性の口説き方まで、ありとあらゆる知識と技術を徹底的に身につけ、特定人物のコピーとして世界各地に送り込まれます。

短編が多く、欧州やアジアなど様々な舞台で諜報戦が繰り広げられる様子が描かれ、その中でD機関の活躍を楽しむミステリーです。ときには結城中佐が登場して、その圧倒的な存在感と異次元の能力に驚かされます(D機関のメンバーも十分に異次元の能力者ですが)。

謎解きというよりも、スリル満点な諜報戦を楽しむ話が中心です。中には誰がD機関なのかわからないまま物語が進む場合もあり、D機関のメンバーを当てるという楽しみ方もできます。


ジョーカー・ゲーム

表題作の「ジョーカー・ゲーム」で結城中佐とD機関のすごさに圧倒され、「ロビンソン」ではスリル満点の諜報戦に完全に心奪われました。毎回登場人物が変わるので、どの作品から読んでも楽しめるように構成されていますが、やはりまずは「ジョーカー・ゲーム」から読むことをおすすめします!


ダブル・ジョーカー

D機関目線の話というより、D機関を客観的に見る話が多いです。おすすめは表題作の「ダブル・ジョーカー」。D機関 VS 風機関という、諜報員同士の戦いが面白い!スパイ時代の結城中佐を描いた「柩」では、命がけの"情報の引き継ぎ"に感動しました。


パラダイス・ロスト

シリーズの中で一番面白かった!おすすめは、「失楽園」「追跡」「暗号名ケルベロス」。「追跡」では結城中佐の過去に迫る話が描かれ、「暗号名ケルベロス」ではエニグマの暗号が出てきて本格的な諜報戦を楽しめます。「暗号名ケルベロス」はボリュームもあって読み応えがあります。


ラスト・ワルツ

シリーズ最新作。おすすめは、ロンドンで起きた密室殺人を解く「パンドラ」。よくある推理小説のような展開で進む物語に、D機関がどう関わってくるのかがポイント。読者もまたD機関に操られているような錯覚に陥る不思議な感覚を味わいました。『パラダイス・ロスト』の「失楽園」と似ているかもしれません。

映画化に合わせて出版されたところもあるらしく、「アジア・エクスプレス」(スパイ同士の戦い!)では親切にD機関のことを説明してくれています。この作品から読み始めても全然問題ないくらい。