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米澤穂信さんの古典部シリーズ最新作『いまさら翼といわれても』。最新作といっても、単行本が発売されたのは2016年なので、およそ3年経っての文庫化です。

今回は長編ではなく短編集。主要キャラクター4人(千反田える・折木奉太郎・福部里志・伊原摩耶花)の個性を掘り下げるエピソードが全6篇収録されています。

長編に比べると物足りなさはあるし、一つひとつの話もそこまで面白いとは思いませんでした。それでも、これからもシリーズが続くとして、各キャラクターのことを知る上では重要な話ばかり。

特に印象に残った話について簡単に。


わたしたちの伝説の一冊

伊原摩耶花と漫研の話。決して本気ではなく、それなりのノリでそれなりに活動を楽しんでいる集団の中に、本気でうまくなりたいと思っている人が居るとどうなるか。というのをリアルに表現している感じ。どちらの立場かは別として、誰しもが経験したことがあるような状況。

その状況を打開するには戦うだけ不毛で、なかなか気持ちのいい(共感できる)解決方法だなと思いました。

長い休日

すっかり定着した折木奉太郎の「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」。千反田にその理由を聞かれた奉太郎が、珍しく回答する話。

なんということのないエピソードですが、人によっていろいろ捉え方が違ってきそうな話。僕は共感できるし、奉太郎がこういう考え方になったのも自然な気がします。

興味深かったのが、奉太郎に対して姉が言った言葉。奉太郎のスタンスを間違っていないと言い、休日に入ると表現した姉。一枚も二枚も上手だなと思いました。


表題作の「いまさら翼といわれても」は千反田の話。この話こそ、これからシリーズが続く上で最も重要な話だと思いますが、少し後味の悪さもあって内容はいまいち。

なかなか発売されるのが遅くて、前作の「ふたりの距離の概算」もうろ覚えな状態で読みましたが、キャラクターは立っているし、早く4人で活躍する長編が読みたいです。

せっかく今回の短編集で個性が深掘りされたところなので、忘れてしまわない内に次作をお願いします。