predictably-irrational

『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』を読みました。数々の実験をとおして、人の行動の不合理さを説いた行動経済学についての本です。

例えば、「アンカリング」というキーワードが出てきます。アンカリングとは、物事を判断する際に、最初に得た数値に引っ張られることです。

テレビを5万円で買った経験があれば、次にテレビを買うときには大きさや性能の違いがあったとしても、5万円を基準に高いか安いかを判断してしまうといったことです。

この本では、アンカリングについての実験結果をいくつか紹介し、さらに、相対的に価格が高いスターバックスのコーヒーがなぜ売れるのかといった具体的な事例に触れながら解説されています。

他に気になったキーワードは以下のとおりです。

  • 相対性
  • 無料の力
  • 市場規範と社会規範
  • 所有意識
  • 選択の自由
  • プラセボ効果

「相対性」の話は、いわゆる松竹梅の選択肢があれば竹が最も選ばれやすく、サービスメニューを作るときは一番売りたいものを中間に位置するのがいいというものです。

「無料」の話では、今話題のソフトバンクと吉野家が実施している牛丼無料キャンペーンに行列ができる理由がわかります。本書では、人は本質的に失うことを恐れるからこそ、無料に反応してしまうとされています。できれば損をしたくないと思っているので、無料ならまあいいか、となるのだと思います。

実際には、牛丼を食べるために並ぶ時間を考えると損をしていたり、別に牛丼を食べたいと思っていたわけじゃないのに、といった不合理さが成り立ってしまいます。

本書では触れられていませんが、他にも、人が並んでいるのを見ると興味本位で並びたくなる心理や、流行りモノに乗っかりたい心理というのも関係していそうですが。



本書の中で最も興味を持ったのが、市場規範と社会規範の話です。市場規範とはお金(金銭的価値)が絡む関係性で、社会規範とはお金が絡まない関係性のことを指します。例えば、企業と個人間には給与が関係するので市場規範です。しかし、福利厚生については社会規範と言えます。

本で紹介されている実験では、金銭のやり取りがない方が、人は他者のために動く傾向にあることがわかっているそうです。例えば、人に何か手伝ってもらったときに、お礼として金銭を渡すと不快感を覚えることがあるのに対し、感謝の言葉やちょっとしたプレゼントを渡すほうが、次回もまた快く手伝ってもらえる傾向にあるといったことです。

企業と個人の話に戻すと、単純に高い給与を支払う会社よりも、福利厚生(例えば無料の社員食堂やリラックスルームの設置など)を整えている企業の方が、社員の会社に対する満足度や貢献度は上がるようです。

Webサービスでも、人に感謝を伝えるものが多くありますが、市場規範と社会規範という視点で見てみると面白いです。

gifteeというWebサービスがあります。感謝の気持ちを伝えたい人に、スターバックスのコーヒーや、ミスタードーナツのドーナツと交換できるチケットをプレゼントすることができます。これは社会規範のサービスと言えます。ただし、社会規範の場合はプレゼントの金額を相手に知らせないことがポイントになるそうなので、その点は注意が必要かもしれません。(コーヒーの値段はだいたいみんな知っているので、気になるものでもありませんが)

また、osushiというWebサービス(2018年2月現在メンテナンス中のようです)は、感謝したい人にお寿司を贈る形式で、実際には金銭を送ることができる投げ銭サービスです。これは市場規範と言えそうです。

人によって、金銭を受け取ったほうが嬉しい場合もあれば、プレゼントを貰えると嬉しい場合、ただ感謝の言葉を伝えてくれるだけで嬉しい場合など、いろいろあると思います。Webサービスを設計する場合には、ユーザーにとってどの形が相応しいのかを考えて、市場規範と社会規範のどちらを取り入れるか、または両方取り入れてバランスを調整すると、うまく行きやすいのかもしれません。



話は変わりますが、Web業界ではここ数年でUX(またはUXデザイン)という言葉がすごい勢いで広まっています。今は「モノからコトへ」と消費者のニーズが変化するにともない、良い物を作るだけでは売れず、良質な体験が求められる時代です。UXは人間中心設計とも言われ、人の感情や行動に焦点を合わせて設計(デザイン)しようという考え方です。

そのためにも、人の行動原理を理解することは非常に重要だと思います。なので、『予想どおりに不合理』に代表されるような行動経済学の本をいろいろ読んでいこうと考えています。

最近、マクドナルドが黒烏龍茶の販売を開始するというニュースが出ていました。サイドメニューに健康志向の商品を追加するとビッグマックの売上が伸びるという研究結果があるらしく、それに基づく不合理な行動を期待したものと予想されます。確かに、黒烏龍飲めばビッグマック食べてもいいかーと思ってしまいそうです。こういうことを考えるのがたまらなく面白い。


と、ここまで書いてふと思ったことが。UXデザインをちゃんと理解して実務に落とし込むためには行動経済学を押さえておいたほうがいい、という考えなのですが、行動経済学はマーケティング寄りですよね。そこに違和感を覚えました。

調べてみると良い記事がありました。
→ UXとマーケティング
→ マーケティングとUXは別物
UXとマーケティングは別視点として捉えておかないと、ややこしいことになりそうです。話が逸れましたが、この件についてはきっちり考えた方がいいし、整理できれば改めてnoteにでも書こうと思います。