ヴァン・ダインの『ベンスン殺人事件』を読みました。ミステリー界では、本格ミステリーの幕開けとして、さらにはエラリー・クイーンに影響を与えた作品として、かなり有名らしいです。
ベンスンが自宅で何者かに射殺される。現場に残された物や状況から、犯人の逮捕は簡単と思われていた。しかし、捜査にファイロ・ヴァンスが加わり、すべてが覆される。物的証拠、状況証拠を否定するファイロ・ヴァンスの推理とは…という話。
物的証拠と状況証拠を否定する
現場にある人物の持ち物が残されていて、その人物が犯行時刻に現場近くにいたとすれば、それだけで警察は逮捕しようとします。それを、そんな証拠には何の意味もないとして否定し、心理学的な側面から真犯人を探すというスタイルが面白かったです。今言うところのプロファイリングに近いようです。
ただ、探偵役のファイロ・ヴァンスの性格がキツいです。芸術思考が強いとか、事あるごとに詩人の言葉を引用するとかはいいとして、皮肉ばっかり言う、勿体ぶって何も教えてくれない(一応理由はあるものの)感じが読んでいてしんどい…。
それさえ目をつむれば、もっと読みやすくて事件の展開に集中できたかなと思います。
ファイロ・ヴァンスに見事に振り回される
ファイロ・ヴァンスが勿体ぶって真相をなかなか話さないのには理由があって、最初からすべて話してしまっても固定観念によって信じてもらえない。だから順番に警察の捜査を否定して、まずは信じてもらえる状況を作る必要があった。ということですが、その度に振り回される警察と同様に僕も振り回されてしまいました。
そして、ファイロ・ヴァンスに皮肉を言われる警察と同じように腹を立てる自分。ヴァン・ダインの思うがままです。そういう意味では、読み終えてから考えると、なかなか楽しかったかもしれません。
事件そのものは難しい感じがしないのに、それでも犯人を間違えてしまうこの感覚。驚きよりも悔しさが残る推理小説でした。恐るべしファイロ・ヴァンス、もとい、ヴァン・ダイン。