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まんがで読破シリーズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』を読みました。

第一次世界大戦後、世界恐慌に陥った時代。アダム・スミスやカール・マルクスが提唱した従来の経済学に限界を感じ、新しい経済理論を開発したケインズ。経済学の教科書とも言われる著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』を、わかりやすく漫画にして解説されている本です。

ケインズ以前の古典派経済学とは

18世紀後半にアダム・スミスが『国富論』を発表。富とは労働によって生み出されるものであり、より多くの富を生み出すために人は自然に分業を始める。それにより経済がうまく回ることを「見えざる手」と称し、経済における自動調整力の仕組みを説きました。

資本主義が進むにつれ、カール・マルクスは資本家と労働者の対等な関係について『資本論』を発表し、労働によって価値が生み出されることを説きました。しかし、資本家と労働者の関係が対等とはいえ、資本主義が進むと労働者は苦しい立場に追いやられる。その結果、労働者による革命が起きると予想します。

マルクスの思想に影響を受けた革命家により、各国で社会主義が実現しますが、それぞれ独自の方法で実行し、結果失敗に終わります。

そして、資本主義の欠陥に着目し、従来の経済学に間違いがあることを認め、新しい経済理論によって不況を救おうと考えたのがケインズです。

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ケインズが感じた古典派経済学の問題点

経済がうまく回っている状態というのは需要と供給のバランスが取れている状態で、いわゆる「見えざる手」が働いているとも言える状態です。

しかし、実際には需要と供給のバランスは崩れるもので、供給が多くなりすぎると不況になります。物が溢れて売れなくなる、売るために値下げする、売上が減る、コストカットのために賃金を減らしたり労働者の数を減らす、労働者が節約するようになる、ますます物が売れない。という悪循環です。

古典派経済学では、この問題を解決する方法は賃金カットであり、物価も下がっているわけだから、相対的に見て労働者は別に損をするわけではないというものでした。

一見、理にかなっているものの、労働者はそういう考え方は持っていない。労働者は賃金が下がること自体でモチベーションが下がる(相対的に価値は変わらないなどとは考えない)とし、不況の原因は別にあるとケインズは考えます。

古典派経済学に見受けられていた自由放任主義に異を唱え、あくまで経済は人の手によって良くすることができるというのが、ケインズの主張でした。

そうしてたどり着いた答えは「利子率」であり、利子率を下げると企業や個人が投資しやすくなること。投資が増えると結果的に景気が良くなる法則を見つけます。

そのために、政府が経済に介入する重要性と、公共事業の必要性などを説きます。このあたりが本書で詳しく述べられており、面白いところです。専門用語や数式なども出てきますが、漫画なのでわかりやすい。

ケインズ以降の経済学の流れ

第二次世界大戦後、ケインズの一般理論を受け入れる国々が現れますが、理論どおりに行かないこともあり、新自由主義と呼ばれるフリードマンが登場します。

フリードマンは政府の介入を撤廃し、自由競争の社会にした方が経済はうまく行くと説きます。その結果、民間企業が大きな力を持つようになり、世の中は便利になる一方(労働者や消費者にとっては選択肢が増えた)、格差が広がる社会になって行きました。

例えば日本では、高度経済成長期にとにかく物を作れば売れる時代があり、需要よりも供給が多くなってバランスが崩れ、価格競争の激しい時代に突入しました。政府による国債の積極的な発行により、企業や個人の投資が進む一方、政府は得た利益を還元するはずが "何故か" さらに借金を抱える状態に。あらゆる事業を民営化した結果、強者だけが勝ち残る傾向が強い社会になりました。

金融緩和や民間投資、公共事業の拡大などに代表されるアベノミクスの方針も、ケインズの理論に起因していると考えられます。

現代とこれからの経済

そして今、改めて資本主義の限界を訴え、物を売るためにはどうすればいいのか、格差を小さくするにはどうすればいいのか、新しい経済とはどういったものなのか、といった議論が活発になっているように感じます。

資本主義と格差の拡大について問題提起をしたのがピケティですが、ピケティの著書『21世紀の資本』は未読のため何とも言えません。累進課税を提唱し、消費税の増税には反対のようですが。

累進課税はたくさん儲けた人はたくさん税金を払うということなので、いわゆる富の再分配を実現する一つの手段です。消費税は誰にでもかかる税金なので、お金がない人にとっては増税されるとつらいところがあります。これらが経済にどう寄与するかですが、どちらにも不公平感が漂っているのが課題でしょうか。

最近、行動経済学という言葉をよく耳にします。人の行動を分析することによって、人は必ずしも合理的ではないことを理解し、物を持つ必要性のない時代に人は何に価値を見出すのか(モノからコトへ)、ということが研究されているのだと思います。

人と人が関わることで生まれる経済。そこに生じる問題は必ず人が解決することができる。ケインズのメッセージは、こういう時代だからこそ必要なのかもしれません。

ものすごく雑に言うと、人は自分がいいと思ったものには惜しみなくお金と時間を使うし、不公平だなと思ったらアホらしくてやってられん、となるので、その両方を押さえた仕組みを作ることができればうまく行くはずです。

そこで無視できないのが人の価値観。価値観なんて人それぞれと言ってしまえばそれまでですが、行動経済学などの発展により体系化することが可能で、さらにはテクノロジーの進化によってお金に変わる新たな価値の尺度が生まれてくれば、もっといい社会になって行くのではないかなと思います。

経済について学んで社会をより良くしようとするあまり、人はお金そのものに囚われすぎて疲弊してしまったんじゃないかなという印象です。なので、これからの経済において、「お金からの解放」がひとつのキーワードだと感じています。



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