フィリップ・K・ディックの短編集『トータル・リコール』を読みました。『トータル・リコール』はもちろん、『マイノリティ・リポート』の原作に加え、初訳作を含む10篇が収録されていて読み応え十分。
特に印象に残った作品はこちら。
「トータル・リコール」
火星に行くことが夢だった主人公が、(実際には行けないので)記憶を植え付ける会社を訪れます。そこで得た火星の記憶は会社の意図したものとは違ってしまい、本物の記憶が何なのかわからなくなってしまいます。
人の記憶の曖昧さを描いた作品で、不思議な感覚を味わえました。まだ映画版のトータル・リコールを観ていないので、この短編がどのように広げられているのか気になります。ちなみに、原題は「追憶売ります」だったそうです。
「地球防衛軍」
放射線に汚染され、人が住めなくなった地球が舞台。人類は地下で生活し、地上ではロボットが戦争を続けています。ある日、ロボットの制止を振り切り、地上の様子を見に行った主人公が見た世界に衝撃を受けます。
短編集の中で一番よかったです!設定やテーマも面白くて、この作品こそ映画化してほしいと思いました。
「世界をわが手に」
宇宙に行けるようになり、そこには地球のような惑星がないことを知る人類。失望した人々は手で持てるくらいの球体の中に世界をつくり(世界球)、一人ひとりの世界を持つようになります。ある日、銀河系外に新たに惑星が発見され、世界球の必要性がなくなります。
なかなかゾッとするので面白いです。何が現実かよくわからないような感覚に陥ることを「ディック感覚」と呼ぶそうですが、この作品も例に違わずいい感じに味わえます。
「マイノリティ・リポート」
予知能力者(プレコグ)によって予見された情報をもとに、犯罪予防システムを活用する社会。ある日、自分が未来の犯罪者としてプレコグに予見されていることを知った主人公が、真実を知るために組織を抜け出して調査を進めます。
ここだけ書けば映画版マイノリティ・リポートと同じ印象を受けますが、全然違いました。これは是非、映画と原作を比べてみてほしい作品です!映画も面白かったですが、ストーリーは原作の方が好きです。