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『その女アレックス』が話題になったピエール・ルメートルの『悲しみのイレーヌ』。『その女アレックス』を読みたいのですが、デビュー作は『悲しみのイレーヌ』で、シリーズとしての時系列もこちらが先らしいので、『悲しみのイレーヌ』から読むことに。

カミーユ・ヴェルーヴェン警部は、ある日、異様に残酷な殺人事件の捜査にあたる。調査を進める内に、過去に起きたとある事件との関連性が発見され、さらに謎が深まって行く。悲しみの連鎖を止めることはできるのか、残酷な犯人の目的とは…という話。

タイトルがネタバレで悲しい

原題はフランス語で「Travail Soigne(丁寧な仕事)」だそうです。うまいタイトルだとは思いませんが、邦題の「悲しみのイレーヌ」はそのまま過ぎてネタバレになっているので、これだけで楽しみが3分の1くらいは減ってしまっている気がします。

『その女アレックス』を先に読んでしまうと完全にネタバレらしいので、タイトルのことも忘れて何も気にせず『悲しみのイレーヌ』から読むことをおすすめします。


はじめて体験する叙述トリック

ミステリー小説といえば叙述トリックですが、こんな叙述トリックははじめて体験しました。目次をみたときに、二部構成になっている割には、第一部が400ページで第二部が50ページとアンバランスだなと思っていましたが、すべてはこの壮大な叙述トリックが故でした。

内容はあまりに残酷で描写も過激なので悪趣味だなと思いますが、叙述トリックを含めて芸術性が高く、純文学とも言えるような作品だと感じました。

このトリックのおかげで何が現実かわからなくなり、まだ希望はあるんじゃないかと思わせてからの絶望という、心をえぐられるような読書体験こそがこの作品最大の魅力です。

読了感はよくないですが(しばらく夢に出そうなくらい)、新しい読書体験ができたので読んでよかったです。最近流行りのイヤミスと思って読めば、もう少しダメージは少なかったかもしれません。

少し休憩して、『その女アレックス』を読んでみます。楽しみだけど、辛い…。

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